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治療も済んだとあってか、寝台を取り巻いていた天幕も除けられ、
さして調度もない無機質な室内は、大窓から滲むやわらかな明るさに満たされており。
“…不思議だなぁ。”
敦にしてみれば、
確かに思い当たる感触があって自分から駆け込んだ空間だったが、
何があったか ただならぬ怪我を負っていた人物が
天からゆるゆると降りて来たという構図にギョッともした。
ようよう見やれば、故あって逢えずにいた人、間違いなく大切な人…のはずで。
恐らくでも何でもなく、
その人の気配に呼ばれてこの微妙な世界へ飛び込んでしまったのに違いなく。
なのに…思い出せないところがありすぎで、
不安から混乱していたところ、自分とよく似た男の子が呼び出され、
その彼と共に優しい懐へ迎え入れられて
やっと何とか落ち着けた虎の子くんで。
甘えていいんだ、その判断で合ってるんだよと、
言われたような認められたような安堵が訪れ、
何とか人心地ついている。
“…そっか。時々もどかしかったのは。”
何かの拍子、呼び掛けてくるものがあったりするものの、
眠りに落ちるすんでとか、目覚める間合いで訪のうそれで。
何かが欠けているような、
置いて行かないでとすがるような心持ちになってしまい、
目覚めはいつもどこかしょげてることが多くって。
“……どうして。”
今のお仕事で知り合った兄人たちには、
その辺りを気づかれていたものか、さりげに案じられてもいたのだろ。
顧みれば物凄い有名な方々ばかりなのに、
がっちり守るように可愛がられていたのも、
察しのいいお人たちが 敦の“訳あり”に先んじて気づいていての気遣いだったのだろうと、
今にして思い知る。
「……。」
何かが鮮明に判って、でもまだちょっとばかり、
蓋だか膜だかが掛かっている部分があるような、
そんな歯がゆい気持ちがあって。
「どうした?」
「いえ…。」
案じるような柔らかい声をかけられて、恐れ入るよに首をすくめる。
記憶を封じられてでもいたものか、
思い出すこともかなわなかった、でもそれはそれは大切だった人。
久しく離れ離れだった兄様に
こうまで劇的に逢えたのが切ないほど嬉しいけれど。
その微熱が別の何かをも擽ってやまない。
まだ少し虫食いになっているあれこれがあるようで、
自分の裡のことだというに、そこが何だか歯がゆくてならぬ。
「……。」
微妙な顔になっている敦へ、
それを少し離れたスツールに腰かけて見守っていた赤毛の青年が
妙に楽しそうに苦笑をし、
「さっきここへ共に来た面々を案じておるのか?」
「……っ。」
どうだ当たりであろうと言いたげな、
少しばかり意地の悪い、でも楽しそうなお顔なのへ、
確かにそれも当たりなものだから、敦もあややと首を縮めてしまう。
だって、彼らは敦の挙動につられて来てしまったようなもの。
なのに放り出しているなんて、失礼にもほどがなくはないか?
「そうさな。気配を思い浮かべてみよ。」
衒いのない動作で歩み寄り、
額に人差し指を添えられ、そのまま目を伏せてみた敦へ、
「気配を捕まえたか?
なら、そこへ行ってみや。」
そうと告げた瞬間、敦が宙に溶けた。
「…わぁっ。」
◇◇
「おお、今度は敦が来たか。」
先程、暁という子が飛んで来たのは此処からのようで。
それとの入れ替わりのような格好になったからか、
窓を開いた明るい部屋にて、それぞれの席について寛いでいたお仲間3人が、
唐突に現れた敦へ笑ってくれた。
一番間近の椅子へと座していた黒い髪の青年が
目許をやんわりと伏せつつ笑い、
「あの浮かんでた御仁は助かりそうなのか?」
「あ、はい。」
馴染みのある声音、親しい者へのざっかけない笑顔。
それはホッとする、暖かな柔らかさ。
それを差し向けられて、胸の奥がキュッとする。
“………あ。”
宝石のように澄んだ双眸が、くるんと丸く見開かれ、
何度か瞬いてから、居合わせている面々を見回すと。
「…中也さん? 太宰さんも。」
順番に名を呼んで見せ、
「えっと………芥川?」
「…っ!」
最後の一人への呼び方が違う。
さすがにこんな状況下でのそんな変化には敏感にもなろうというもの、
はっと表情が弾かれた皆様なのへ、
なぜそんな反応が出たのかには敦自身も心当たりがありすぎるのだろう。
佳境に入った撮影で、もしくはその前のタレント活動で、
知り合ったというだけの仲じゃあない、と。
『ようこそ、武装探偵社へ。』
『愚者がっ。』
『もしかして迷子か?
探偵社の仕事、訊き込みか何かで来たのなら、
ここいらは年中無人の区画だ、大したネタは拾えんぞ?』
死線を渡るような危険な場を共有し、
時に敵対し、時に共闘し、
激戦の中で絆のようなものを密に結び合ったお相手たちで。
一番幼く、一番未熟だった敦は、
それでも真摯に噛みつき食らいついて、己を曲げずに付いてったところを買われ、
何なら敵対者なはずの中也らからさえ、
見どころがあるとみなされ、最終決戦の場へ送り出されもした。
そういったあれこれを一気に思い出し、
「あの…あの、えっと。//////」
かぁっと頬を赤くすると視線をせわしく揺らめかせ、
えっとえっとを繰り返すのがまた愛らしい。
そんな様子へ中也がにっかりと笑って見せ、
「…そっか、思い出したんか。」
敦だけは封をされていた前の生の記憶が、今やっと紐解かれたらしく、
急な覚醒とそれから照れくささとに眩暈がしたのか、たたらを踏みかかるのへ
3人分の腕が伸びたのが何とも言えぬ。
「あ…えと、あの。」
神経が擦り切れそうなほどの決死な修羅場において、
真剣本気で敵対もし、同時に胸襟開いて親しくしてもいた人らであり。
今の蓄積でもそばにいた事実との折り合いというか、記憶のダブりを均すのに、
脳内が目まぐるしく動いていての混乱が起きているらしく。
そんな幻惑に翻弄されていた身を真っ先に支えてくれた腕の持ち主、
ぱふりと頬を伏せた懐から…ちらりと見上げたのは、
本来は一番切り刻まれた相手でもあって。
…龍くんって呼んでた?///////
まあな。構わぬよ。
くくと笑うお顔が、心なしか直近の柔らかさも含んでいて温かい。
意を通じ合った間柄になるまで、それは凄絶に斬り合いや殴り合いを繰り返した相手だし、
仲が良くなればなったで、見ていられないとばかりの弟扱い、
随分と過保護に構われもしたのも一興で。
そんな皆様の柔らかい視線に見守られつつも、
「あのあの、えっと…。」
自分でもまだ整理が追い付かないが、それでも説明はするべきだろうと、
頑張って頭の中を引っ掻き回す。
先程までここに居た暁くんと自分は、どうやら二人で一人なのらしく。
こちらの世界で生まれた身でもあるようで。
けれど、時空を渡る仕儀の折、何かしらの妨害がかかったせいで、
敦の方は思いもよらない場所へ弾かれてしまったという。
それで記憶が欠けていたのらしく、
さっきから…この世界でも一部の人しか使えないそれ、
咒力というのへ触れているうちに、
少しずつ思い出せていることがあるみたいで、と。
たどたどしいながらもそんなことを口に上らせる虎の子くんへ、
“二人で一人か…。”
“バロムワンとかウルトラマンエースとか?”
誰ですか、そんな昭和の特撮持ち出してるのは。あ、私か。笑
「そうか。
では、あの不思議な道着を着ていたお人は、敦の知ってた人だったのか?」
「はいっ。ここでのボクの兄だったようです。」
そこは嬉しいことらしく、
ついつい笑みがあふれるのを押さえつけたいか、
頬を両手で挟み込みまでするところが、
今の…現世での敦らしい無邪気さで、なんとはなくホッとする。
前の生ではそれは大変な生き方を強いられていた和子だったから。
もしかしてそれを思い出したくないのかもと、
兄たちでこそり示し合わせたこともあったほど。
そんな部屋へ、
「お邪魔するよ。」
開け放ったままだった扉の外から声をかけてきたのが、
ああそういえばこの人もいたなという予測のうち、
太宰が演じていた鎮冥(しずめ)という青年だ。
そういう設定だというのもあったが、原画の絵よりも瑞々しい美貌の君であり、
ニコッと笑うと柔らかな花弁も豪奢なシャクヤクを思わせる麗しさ。
屈託のない様子で、知的さも売りな太宰ほどのあざとさは感じさせないけれど、
“そこが底知れないんだけれどもね。”
ご当人である太宰がこっそりと胸中で呟いたのはここだけの話。
『世話は此奴らが担うので。』
こちらの面々、放り出されていたわけではなくて。
それぞれへ椅子やソファーを勧めると、
此処へ案内してくれた敦似の少年と黒髪の青年が、何かしら術を唱え、
手をかざすようにして示された先、出窓になっている框に、
大人の手のひらくらいの大きさの小さな存在が10人ほど現れており。
彼らが使役する式神であるらしく、
手乗りのぬいぐるみのような、だがだが一丁前に唐服姿の小人さんたちが
湯の入ったティーポットや椀を載せた木の盆を数人がかりで頭上へ抱えて運び、
香りのいい和茶を出してくれたのは、なかなかのパフォーマンス。
無聊のなきようにとも取れた賑わいの中、
いつの間にか姿を消していた、おそらくは暁少年と鵺くんという二人と入れ替わるよに
この場へ顔を出した格好の彼であり。
こちらも衣紋はどちらかといや古風な和もので、
裾を絞らぬ袴に皮の沓(くつ)、
小袖に袴にinしないところは狩衣風の、だが丈は繰った長さの衣を重ね、
窮屈ではなさそうな錦の帯を締めておいで。
ちょっとしたコスプレ感もなくはなかったが、
着こなしがスマートなため違和感はみじんもない。
むしろ、いわゆるトレーニングウェア姿のこちらこそ妙な連中に見えているかもで、
“いやそれはないと思うが…。”
ああ、そうでした。
一応は現代の日本が舞台になってるお話でしたものね。
場外の書き手のつぶやきまで拾った会話へか、くすりと微笑した鎮冥様、
空いている椅子へ腰かけると、自身の感慨を口にする。
「さして驚かぬあたり、こちらの事情のようなものに心当たりをお持ちのようだ。」
明らかに…とは言わないが、それでも奇妙な運びで吸い込まれた感のある異世界であろうに、
そのあたりには気づいているはずが慌てもしないし、
すぐに気が付くだろう、微妙に自分たちと似た顔ぶれがいる。
それも含めてか、
「こちらもまた少々驚かされたが、
並行世界か何かならそういうこともあるかなと、
思考が柔軟ならば理解は及ぼう。」
彼らの側でもそんな風に理解は及んでいたようで。
対面している敦を真っ直ぐ見やって、
「途轍もない力持つ、上位互換の主であるキミが生まれ出たことで、
泡を食った連中がいてね。」
もしかせずとも、どうして、何が起きているものかを浚ってくださるらしく。
そのカギはどうやら敦であるらしい。
「強い格付けであることは責めるような順番ではないのだろうに、
勝手に困ったらしい小心者がいたもんでね。」
そうと言って肩をすくめる彼で。
そして、
「どこまで此方の事情を知っておいでかは判らないが、
今日起こっているこの仕儀はさすがにご存じないだろうと思ってね。」
そのあたりを語りに来たらしい鎮冥らしかったが、
「これも含めてかな?」
「え?」
禁足地は現代の地にありながら負の世界にも近いものか、
様々な奇跡が起きるところでもあるらしく。
咒や呪いの吹き溜まり、地場のひずみの集約地、
面倒ごとを捨てに来る者もいれば、
そういったものが此処から生じると根拠もなく思う輩もいるようで、
開け放たれていた扉から、木刀を振り上げ飛び込んできた一団へ、
「…っ。」
やや鋭い視線を向け、即座に対応しかかった鎮冥だったが、
「お。」
それより一瞬ほどの前、
スツールを手に取るとすかさずひゅんと投げつけて、
先陣切ってた手合いの顔を打つ格好、軽々と打ち倒した中也だったりし。
「客人だったのならすまねぇな。」
「いやいや、
こちらこそ無粋な連中、ここまで侵入を許して無様なことだったね。」
表向き、俳優でしかないはずの彼らだが、
ただ、型だけの格闘技を修練していたわけじゃあないし、
胸を張れたことじゃあないながら、
映画用の様々な活劇がスタントどまりじゃあないレベルでこなせていたのも、
前の生で身につけていた、本当に生死を分けるレベルの勘をそのまま研ぎ直していたまでの事。
「どうやって嗅ぎつけたのか、ただの巡り合わせか、
今ちょうど此処の主人は忙しくてね。」
「判った。」
結局 立ち上がりもしないままの鎮冥なのへ、そちらも特に思うところはないらしく。
相手陣営へ突っ込むように駆けだしながら、
芥川が続くよに立ち上がったのを視野の中で拾ったそのまま、
何で持っていたものか、伸縮式の簡易警棒をひょいとパスをする中也で。
どうやら誰かさんの発していた“魅了”の流れ弾対策、
最後の手段で張り倒すべく、それなりの武装を常備していたらしく。
仲間同士で殴り合わぬようにか、どこの僧兵かというよな衣装をそろえている一団へ、
「手加減はしてやんよっ。」
こちらから勢いよく突っ込んだのが中也なら、
小柄な痩躯から繰り出される途切れのない連綿とした打撃や蹴りで
切れ目なく沈めてゆくのから、
「っ、ひゃあっ。」
泡を食いつつギリギリ逃れたクチを、
「……。」
落ち着き払って待ち受けて
綺麗に左右へとたまに下へ捌くよに、警棒の鋭い一閃でなぎ倒すのが芥川。
「な、何なんだ、こいつらっ。」
こちらの本来の住民にならば多少は効果があるものなのか、
胸元や額に墨色で書き込んだ梵字もどきを神経質な所作で撫でつつ、
ただただおびえる彼らであり。
それでも逃げての室内の奥へと踏み込めた輩へは、
太宰がにぃっこり笑いつつ、
トレーニングウェアの袖へ滑り込ませていたらしき、
スパイラルの利いた細い細いゴム製鞭を引っ張り出し、
鼻先や額をめがけてばつんばつんと的確に叩きつけ、
容赦のない鞭打ちの打撃を食らわせており。
それがまた結構な激痛であるものか、しかも目許近い急所を襲うせいか、
それなりの覚悟もあろう襲撃者らが、野太い声上げ、次々と蹲るものだから、
「…キミ、とてつもないガーディアンに守られてたんだねぇ。」
顔へと攻撃できるってのは、
素人ならともかく練達であればあるほど、
急所の塊と知ってて故意にやってるってことだからねぇ。
「えっとぉ。////////」
to be continued.(26.05.12.〜)
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*原作ではまだ敦くんと中也さんが出会ってはないので、
ウチのワールドでの会話を出させていただきました、すいません。

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